大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所 昭和39年(行ウ)3号 判決 1965年2月23日

原告 嘉村チテ 外五名

被告 長崎県知事

主文

原告らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

一、原告らの申立て

原告らと被告との間において、被告が訴外亡嘉村直喜に対し昭和三七年一二月一〇日付三七都第七八七号をもつてなした被告の同年二月一三日三七都第五三号仮換地指定処分を取り消し、諫早市宇戸一一九九番二宅地一六坪二〇、同市岡田八七番三田一六坪に対し仮換地として同市天満工区一三街廓一二画地一八坪四〇を指定する旨の行政処分は、無効であることを確認する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告の申立て

(一)  本案前の申立て

原告らの訴えを却下する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決を求める。

(二)  本案についての申立て

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、原告の主張

(一)  請求原因

(1) 諫早市宇戸一一九九番二宅地一六坪二〇および同市岡田八七番三田一六坪は、いずれももと原告ら先代訴外嘉村直喜の所有であつたが、同訴外人は、昭和三六年八月一〇日に死亡し、原告らが、相続によつて右各土地の所有権を取得した。

(2) ところで、被告は、まず、昭和三三年九月一七日付三三諫都第四七六号をもつて、右嘉村直喜に対し、前記各土地の仮換地として諫早市天満工区一三街廓一二画地二〇坪を指定し、その効力発生の日は同日、使用収益開始の日は別途通知する旨の行政処分(以下単に第一処分という。)をなし、ついで昭和三七年二月一三日付三七諫都第五三号をもつて、前同人を相手方として、使用収益開始の日は別途通知するとせず、かつその効力発生の日を同月一日とする以外は、第一処分におけると同様の内容の行政処分(以下単に第二処分という。)をなし、さらに同年一二月一〇日付三七都第七八七号をもつて、前同人を相手方として、同年二月一三日付三七都第五三号をもつてなした仮換地指定処分を取り消し、前記宅地および田に対する仮換地として諫早市天満工区一三街廓一二画地一八坪四〇を指定し、その効力発生の日は同年一二月一〇日とする旨の行政処分(以下単に第三処分という。)をなした。

(3) しかし、第三処分は、第一、第二処分についてのいわゆる取消変更処分であるところに、これには、つぎの(イ)ないし(ニ)の瑕疵が存し、しかもその瑕疵は、重大かつ明白であるから、第三処分は、当然無効である。

(イ) 第三処分は、第一、第二処分につきなんら瑕疵が存しなかつたにもかかわらず、あえてなされたものであるから、違法である。

(ロ) 第三処分は、なんら公益上の必要にもとづくことなくしてなされたものであるから、違法である。

(ハ) 第三処分は、第一処分より四年以上を経過し、その取消変更権消滅後になされたものであるから、違法である。

(ニ) 第三処分は、一方においては隣地所有者であつた訴外牟田綱三に対する仮換地指定処分の仮換地の地積が三二、七坪から三四、六二坪に増加されているにもかかわらず、なんら合理的な理由なくしてこれと差別的な取扱いをし、その仮換地の地積を前記のごとく第一、第二処分におけるそれよりも一坪六合減として、右両者間に著しい不公平を生ぜしめたものであるから、違法である。

(4) それで、原告らは、被告に対する関係において、第三処分が無効であることの確認を求める。

(二)  被告の本案前の抗弁に対する答弁

仮換地指定処分といえども、それ自体独立した行政処分であり、これによりその相手方の権利もしくは法律上の利益に直接法律上の効果を生ぜしめるものであるから、その者は、仮換地指定処分の無効確認を求める訴えの利益を有する。

二、被告の主張

(一)  本案前の抗弁

(1) 原告ら主張の前記第二の一の(一)の(1)および(2)の各事実はいずれも認める。

(2) 被告は、第三処分をしたと同じ頃、これと同様の換地計画を作成し、これを昭和三七年一二月一一日から同月二四日までの間にわたつて縦覧に供したところ、これに対してはなんら異議を唱える意見の申出がなかつたので、第三処分とは別個に、すなわち同処分の有効無効とはなんらかかわりなく、前記換地計画にもとづき、近く換地処分を行う予定である。したがつて、ことここにいたつた以上、もはや原告らには第三処分についての無効確認を求める訴えの利益はない。

(二)  本案についての答弁

(1) 原告ら主張の前記第二の一の(一)の(1)および(2)の各事実はいずれも認める。

(2) 第三処分は、形式上はともかく、実質上は、原告らが主張するがごとき取消変更処分ではない。すなわち、被告は、第一処分後、隣地所有者であつた訴外牟田綱三から不服の申出があつたので、原告ら並びに右訴外人と話合いのうえ、現地につき原告らの承諾をえて、第二処分をなしたところ、同処分につき現地を実測して、その結果と書類上の地積の表示との間に誤差が生じたので、これを実測の結果のそれとあわせるため、単なる訂正の方法として、第三処分をなしたまでのことであつて、その間になんら実質上の変動はない。ちなみに、仮換地指定処分は、単なる形式上の記載にもとづく机上の処分ではなくして、結局はあくまで現地についてなされなければならないものであるから、その形式上の記載が現地と異る場合は、むしろこれを現地とあわせるように訂正すべきが当然である。もつとも、第三処分がその訂正の方法として形式上妥当であつたか否かについては議論はあるにしても、問題は単にそれのみに止まり、さらに進んで、しかるが故に第三処分が法律上当然に無効とされなければならないいわれはない。まして、原告らは、第二、第三処分によつて同仮換地上の従前よりのその所有居住家屋につきなんら実質上の影響をうけてはいないのであるから、なおさらである。

第三、当事者双方の立証<省略>

理由

一、まず、被告の本案前の抗弁について

(一)  諫早市宇戸一一九九番二宅地一六坪二〇および同市岡田八七番三田一六坪がいずれももと原告ら先代訴外嘉村直喜の所有であつたこと、同訴外人が昭和三六年八月一〇日に死亡し、原告らが相続によつて右各土地の所有権を取得したこと、被告がまず昭和三三年九月一七日付三三諫都第四七六号、ついで昭和三七年二月一三日付三七諫都第五三号、さらに同年一二月一〇日付三七都第七八七号をもつていずれも前記嘉村直喜に対し順次に原告ら主張の第一、第二、第三処分をなしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  しかし、土地区画整理法にもとづく仮換地指定処分は、換地指定処分にいたるまでの暫定的な措置と解すべきではあるけれども、それはそれとして、従前の宅地について権原にもとづき使用しまたは収益できる者に対し、仮換地指定の効力発生の日から換地処分があつた旨の法定の公告がある日まで、仮換地または仮換地について仮りに使用しもしくは収益することができる権利の目的となるべき宅地もしくはその部分について、従前の宅地について有する権利の内容である使用または収益と同じ使用または収益をすることができ、従前の宅地については、使用しまたは収益することができなくなる法律上の効果を生ぜしめるものであるから、仮りに被告主張の換地計画の作成、その縦覧、これに対する利害関係人の異議申出の皆無および換地処分の予定の各事実が存したもしくは存するとしても、その換地処分がいまだに予定の段階にすぎないこと被告主張のとおりである以上、すなわちその換地処分が終了していない現在においては、原告らにおいて第三処分の無効確認を求める訴えの利益を有するものというべく、したがつて、被告の本案前の抗弁は、これを採用するに由ないものである。

二、ついで、本案について

(一)  原告らが諫早市宇戸一一九九番二宅地一六坪二〇および同市岡田八七番三田一六坪の所有権を取得するにいたるまでのいきさつ並びに被告がいずれも原告ら先代訴外亡嘉村直喜を相手方として右各土地に対しなした第一ないし第三処分の経過は、いずれもさきに認定したとおりである。

(二)  そこで、原告らが第三処分の無効原因として主張するところのものを順次判断する。

(1)  第三処分がいわゆる取消変更処分であるか否かについて

いつたん仮換地の指定処分がなされたときは、みだりにこれを取り消し変更することは許されないのであるが、仮換地指定処分が換地指定処分にいたるまでの暫定的措置であることは、前記のとおりであるから、仮換地指定処分がなされた後においても、公益上の必要その他特殊な事情を生ずるにいたつた場合には、これを取り消し変更しうるものと解するのが相当である。本件においては、第一ないし第三処分があいついでなされ、第一、第二処分においては、その指定仮換地の地積が二〇坪とされているのに対し、第三処分においては、まず第二処分を取り消すとなし、さらにその指定仮換地の地積を一八坪四〇(前同一画地)となしていることは、さきに認定したとおりであるから、これによると、第三処分は、形式上はもとより、実質的にも、いわゆる取消変更処分であるかのごとくである。

しかし、換地処分は、もとより、仮換地指定処分においても、それは、書面上もしくは図面上の単なる形式上の記載にもとづいて施行完遂されるべきものではなくして、結局はあくまで現地における特定の地域についてなされなければならないものであるから、もし仮換地指定処分における指定仮換地の地積等が現地における実際のそれとそごする場合には、そのそご部分は、現地に即するように訂正されなければならないことはいうまでもなく、したがつて、かかる訂正は、たとえその訂正の方法として形式的には取消変更処分の措置がとられたとしても、実質的には前の行政処分に対する取消変更処分であるとまではとうていなしえないものと解するのを相当とするところ、さきに認定した第一処分から第二処分を経て第三処分がなされるにいたるまでの事実に、いずれも成立に争いのない甲第四ないし七号証、同第九ないし一一号証(ただし、第一一号証は、そのうち後記の信用しない部分を除く。)、原本の存在並びにその成立につき争いのない同第八号証、証人島野謹示、古賀末太の各証言および原告兼原告千恵子、同光子法定代理人嘉村チテ本人尋問の結果を総合すると、諫早市内等における仮換地施行の通常の方法は、その施行区域が広範囲にわたるため、まず現況図を施行者の計画基本図としてこれに計画路線を記入し、その道路で囲まれた部分を一ブロツクとしてこれを一街廓とし、つぎにその部分の右図面上に指定すべき各仮換地の範囲をあらわす線をひいてその一こまを一画地とし、これにもとづいて仮換地の指定をなしているのであるが、このような方法によるその指定地積が必ずしも現地における実際のそれと全く合致するものとは限らず、その間に多少の差異も生じうることが考えられるところから、さらに本換地処分にいたる前提として、現地についての確定測量をなし、もしこの測量の結果とさきになされた仮換地指定処分との間に差異を生じた場合には、あくまで測量の結果にもとづいてその地積等を最終的に確定しているものであること(もつとも、従前の宅地の地積は、公簿上のその記載を基準とする。)、そして、本件の場合においても、施行者の前記計画基本図にもとづいてまず第一処分がなされたところ、同処分ではその西側の訴外牟田綱三所有の隣地との関係において地上建物のはみ出た部分を切除しなければならなくなる関係上、昭和三六年の前記嘉村直喜の死亡前、施行者側と右嘉村直喜および前記牟田綱三らとが話合いのうえ、建物を切除しなくてもすむ線をもつて仮換地を施行することとし、あけて昭和三七年には、施行者側が前記牟田綱三および原告嘉村チテら立合いのもとにその指示並びに納得にもとづいて現地の必要個所に杭を打ち込み、原告らに対する指定仮換地の地域を現地について具体的に特定したうえ、その地域を実測することなく、単に前記図面上で変更(その地積が第一処分におけるそれと同じく二〇坪とされていることは、さきに認定したとおりである。)の線の記載をして、第二処分がなされるにいたつたこと、その第二処分にあつては、施行者側としては、もともと前記嘉村直喜に対する仮換地の地積は二〇坪と計画していたし、また同人並びに原告らに対しても終始そのように伝えていたものであるところ、実測により現地における指定仮換地のそれが仮換地指定処分におけるそれより広くなることは間々あつても、せまくなることは極めてまれであつたため、かつ前記図面上の計算によると右の杭打ちをした原告ら関係の仮換地の地域はその北側に多少の余裕があるから二〇坪はあるはずと判断したため、指定仮換地の地積二〇坪としての第二処分をなしたのであつたし、一方原告ら側としても、かねがね施行者側から仮換地の地積二〇坪は確保すると聞かされていたので、右の杭打ちにもかかわらず、その地域は二〇坪はあるものと考えていたこと、ところが、その後施行者側において現地の右地域につき確定測量をなしたところ、二〇坪あるはずのその地積が一八坪四〇しかなかつたので、施行者側としては、二〇坪足らずではいわゆる過少宅地として手続きが面倒になるが、現地におけるその地域は前記のごとくすでに関係人の納得のもとに具体的に特定されているのであるから、第二処分における指定仮換地の地積を右の測量の結果にあわせるように訂正するほかないと判断し、その結果、右の訂正の手段として第三処分がなされるにいたつたものであること、以上のごとく、地積二〇坪のつもりで仮換地指定処分をなし、または仮換地指定処分をうけたのが、実測の結果その地積が実は一八坪四〇にすぎなかつたから、そのように訂正されたというのであるが、そのため、結果的には、一方の前記牟田綱三に対する指定仮換地の現地についての実測地積は当然増加し、従前の宅地三二、七坪に対し指定仮換地三四、六二坪となつたこと、しかし、これも、前記杭打ちの際の原告嘉村チテを含む関係人の納得のもとになされた現地における仮換地地域の特定の結果であり、同原告は、その指定仮換地の現地における実際の地積は知らなかつたが、その具体的な範囲は知つていて、あえて異議を述べずに、これを承諾したものであつたことをそれぞれ認めることができ、これに反する証人島野謹示の証言は、前記の各証拠に照らして信用できないし、他に以上の認定を左右すべき証拠はない。右事実によると、第三処分は、形式的にはいわゆる取消変更処分たるの外観を呈してはいるけれども、実質的には前の処分内容の事実に即した単なる一部訂正たるにすぎないものと認めるのが相当である。

もつとも、第三処分にして右のとおりである以上(事実に即する訂正の適法であることは、前記のとおりその訂正はむしろなすべきであるとなしたところからして、自ら明らかであろう。)、その形式的な方法についてはいささか妥当性を欠くきらいがないではないのであるが、それだからといつて、そのこと自体が第三処分を法律上当然に無効としなければならないほどの重大かつ明白な瑕疵にあたるものとはとうていなしえないことは多言を要しない。

(2)  原告ら主張の事実摘示第二の一の(一)の(3)の(イ)(ロ)(ハ)の各無効原因について

しかし、第三処分がなされるにいたるまでの経過、仮換地指定処分における現地の実情に即した過誤の訂正の要否および第三処分の性質については、いずれも前記のとおりであつて、これらによると、第三処分に原告らの主張するがごとき違法があつたとはとうていなしえないから、原告らの右各無効原因の主張は、それらが第三処分を法律上当然に無効とならしめるほどの重大かつ明白な瑕疵にあたるか否かについて判断をするまでもなく、いずれも理由がない。

(3)  同第二の一の(一)の(3)の(ニ)の無効原因について

しかし、第三処分がなされるにいたるまでの経過、特に第三処分における地積訂正の原因並びにこれと原告ら側との関係、仮換地指定処分における現地の実情に即した過誤の訂正の要否、第三処分の性質および訴外牟田綱三に対する指定仮換地の地積増歩の原因並びにこれと原告ら側との関係については、これまたいずれも前記のとおりであつて、これによると、少くとも第三処分については、原告らの主張するがごとき合理的な根拠を欠く差別的な取扱いの違法はないものというべきであるから、原告らの右の無効原因の主張は、それが第三処分を法律上当然に無効とならしめるほどの重大かつ明白な瑕疵にあたるか否かについて判断をするまでもなく、理由がない。

なお、減歩については、それは金銭補償によつても一応形式的に解決される問題であることを附言する。

三、そうすると、第三処分に原告ら主張の無効事由が存することを原因としてその処分が無効であることの確認を求める原告らの各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝 鍬守正一 萩尾孝至)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例